濡れた八月の夜

　八月に入って仕事にあぶれてから一週間以上経っていた。全然金が無い。情報誌を見て、日払い可。毎日仕事あります。応募した当日から勤務OK。という羽田空港での仕分けのバイトを始める事にした。夕方五時から翌朝六時までの夜勤だ。
　三時半に会社に行くと、生乾きの作業服と異臭を放つ穴の空いた安全靴を支給され、マイクロバスに詰め込まれて空港に向かった。荷捌き場に集合すると、さっそく朝礼ならぬ夕礼。飛行機とトラックの騒音で全然聞こえない。たぶん聞く必要のない事をしゃべっているのだろう。じゃなかったら、もっとデカい声をだしているはずだ。
　熱中症対策に水2ℓと塩飴を与えられて、夜中まで働くとようやく休憩だ。汗でパンツまでぐっしょりなのに、休憩所のエアコンの温度設定は19℃。寒くてたまらず、ずっと非常階段にいた。朝までなんとか乗り切ると、帰りのマイクロバスでは、後ろの席の兄ちゃんがずっと覚醒剤の値段の話をしていた。
　七時に会社に着くと、新人にはこの仕事を続けるかどうかの意思確認が行われた。迷わずに辞めた。さっぱりして会社を出ると、ビールを買いにコンビニに行った。最後の千円札は汗でビショ濡れで、恥ずかしくて使えなかった。なんとかsuicaに電車賃を差し引いても発泡酒が買えるだけの残金があった。


　去年の誕生日はこんな感じでした。今年はみなさんに祝っていただいて、とてもうれしかったです。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　シブヤタクオ