白い恋人

私、マルホラに出演する女優さんのストーカーでございます。ある筋からつかんだ稽古場情報のおかげで毎日稽古をこっそりのぞくことが至上の喜びとなっている今日この頃、いつものように昼稽古を拝見しようとオペラグラス片手に待てど暮らせど皆さん現われません。意を決して稽古の行われる会館に忍び込んでみると、いましたいましたマルホラの皆さんの中にいつものようにひと際美しくただうなだれる彼女が、「うなだれる！？」聞き耳立ててみると役者のちんちくりんのミスで昼夜のはずが夜間しか稽古場が予約できていなかったとのこと「稽古見せろよちんちくりん！」とストーカーの私もかなり憤りを感じ睨んでいると、申し訳ないふりの芝居をしているちんちくりんを美しい彼女が慰め始めたじゃありませんか、「本当に慰めてほしいのは私なんだ。誰よりも稽古を待ち望んでいるのは私なんだ」今ほどストーカーという職業を呪ったことはない。今日は「ホワイトデイ」私は声帯の弱い彼女のためにたくさんののど飴を近くのファミマで買い込み、夜間の稽古場のいつもの彼女の指定席の前にそっと置いてその場を去った。ストーカーにはギリギリの行為だ。
　オペラグラス片手に彼女の笑顔を待つ私の前に真っ先に現れたのは、無遠慮にのど飴の袋を破くあのちんちくりんだった。
　「勝手に人のものに手を出すんじゃないよ！！」私の心の叫びだった。