Yとあたし

稽古場でのYは、ちょっと怖い。
怒鳴られると、体全体がビクってなる。
でも、それと同時に、怒鳴られた瞬間、
体の奥のほうがなにか熱くなる感じもして、ちょっと嬉しい。
最近は、他の女優さんが怒鳴られたりするときに嫉妬したりするくらい。
共演のIさんが、そんなあたしのほうを不審げに見る。
あたしは、ずっとYを見つめていたのを悟られたような気がして、
ちょっと恥ずかしくなる。
それと、怒鳴った日の夜のYは、かえって優しくなるようで好き。
「俺、また怒鳴っちゃったよ」って甘えてくる。
そんなYの顔を知っているのがあたしだけだと思うと、
またちょっと嬉しくなる。

台本を書き上げたあの雨の夜、Yはあたしのアパートを訪れて、
「お前に一番に見せたくて」って言ってくれた。
あたしは、雨に濡れたその台本を読んで、泣いた。
そして、安いワインで祝杯をあげ、あたしとYは結ばれた────。

Yが好き。
Yの、顔のホクロが好き。
Yの、ちょっと色素のうすい瞳が好き。
Yの、体の匂いが好き────。

でも、Yには奥さんも子供もいるので、
本気で好きになっちゃいけないってことは、わかってる。
本番が近くて、毎日稽古があるので、毎日Yに会うことが出来て嬉しい。
初日まであと一週間、そして最終日までは12日間。
それを過ぎると、もうYに会えなくなると思うと、たまらなく寂しい。
とてつもなく、辛い。